職人の技だよ

ぎらぎら光る包丁。
削りたての、新品同様に
よみがえったまな板。


「包丁とぎま〜す、まな板も削りま〜す」
マイク音が洗濯物干してたら聞こえた。
あわてて4本抱えて玄関の外に飛び出る。
トラックで回ってきたおっちゃん。
道具にこだわるうちの父は、包丁研ぎも得意。
でも大阪まで包丁もって研いでもらいにいくわけにいかないし、
数年前までトラックで回ってきたおじいちゃんは最近来なくなったし、
しかたなく簡易包丁研ぎのグッズでしのいでいた。
こだわりの父選りすぐりの「kiya」の出刃包丁、ゾーリンゲンの包丁、
種子島の鉄包丁を白髪、白髭、真っ黒に日焼けしたおじちゃんが、
ほいできたよ、と返してくれたとき
その生まれ変わった輝きに思わず目が釘付け。
「これ・・・Tさんが研いどった包丁やろ?一目でわかる」
「あのじいさん、去年亡くなった。わしは一緒に仕事しとったからすぐわかる」


次男が小さい頃、研いでもらうたびに大きくなったなぁ、成長したなぁと
声かけてくれたおじいちゃん。 急に顔を思い出した。
「わしのはまた違うぞ、切ってみてくれたらよーわかるから」
と、ニッと笑顔で白い歯を見せた。



家の中に持って帰って早速晩ごはん用の鶏肉を切る。
ひえぇ・・・おっそろしいくらい切れる。
違う、の意味がよく分かった。



夜、包丁を使った次男も「なんだこれ?!」と驚いてた。



でも今日のおじちゃんも、結構いい年みたいだった。
こういう技を引き継いでいってくれる人っていうのは
いないのかなぁ・・・・